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 【生涯学習】

《公開講座記録》【「大和学」への招待 ─郡山の歴史と文化2─】 第2回 「菩提酛(もと)」を世界のSAKEへ ─そのオリジナリティー再検証の試み─

第2回
●2020年9月26日(土) 午後1:30
●テーマ: 「菩提酛(もと)」を世界のSAKEへ ─そのオリジナリティー再検証の試み─
●講師  住原 則也 地域文化学科 教授

内容

ナラロジー研究(=「グローバル化時代の奈良研究」)の一環として、本テーマについてお話させていただきました。

「菩提酛(ぼだいもと)」と聞いてそれと分かる人はかなりの日本酒通であると思われます。実は、現在の日本清酒の造り方の源流となる製法として、この今で言えば「菩提酛」製法を考え出したのが、500年以上も前の菩提山正暦寺(奈良市)の僧侶集団であることが、東京大学史料編纂所に長く眠っていた「佐竹文書」の中の「御酒之日記」という古文書により明らかになりました。同文書は、常陸の国(今の茨城県)の大名佐竹家が家来に命じて、主に西日本の当時の有名どころの酒造りを調べさせた報告書、と考えられています。

「御酒之日記」は3度ほど書き写されながらも数百年もその価値を知られず眠り、今から80年以上前、上記の資料編纂所の編纂官であった研究者、小野晃嗣氏によって発見され、その内容については、氏の著書『日本産業発達史の研究』の中の「中世酒造業の発達」で紹介され、戦後になってその歴史的価値が注目され現在に至っています。酒造りの古文書は、江戸時代のものは膨大な量あっても、それ以前の中世の時代(1185-1573)のものは極めて少なく、江戸時代以前の酒造りの詳細は、ほぼ闇の中にあったと言ってよいと思われます。

それでは何故「菩提酛」という手法が現在の日本清酒の源流と呼べるのかと言えば、複雑な酒造り工程をこの限られた紙面で詳しくは説明できませんから、簡潔に述べると、日本酒は、「酒母造り工程」(=酛(もと)造り工程、つまり、大量の酵母菌を増殖させる工程)と、「醪(もろみ)造り工程」(酒造りを完成させる工程)の2つに分けていますが、この2つの工程を成功させるには、3つの「微生物」を利用しています。そもそも人間の目には見えない微生物の存在自体が確かめられたのは、ヨーロッパで顕微鏡が発明された17世紀以降のことです。酒や醤油、納豆、パン、など多くの食品が微生物の働きをコントロールして造られていましたが、「微生物」の存在や性質が科学的に分かっていたわけではないです。

日本酒の場合、3種類の微生物とは、「乳酸菌」と「カビ」と「酵母菌」のことで、まず、「乳酸菌」は強い菌であるために、酵母の働きの邪魔をする他の雑菌を駆除するのに使われました。日本の特殊な「カビ」は、その胞子の中に大量の「酵素」を持っていて、その酵素を使えば、蒸した米粒の中のデンプンをブドウ糖に分解してくれます。そのブドウ糖を「酵母菌」に食べさせることで、アルコールと二酸化炭素に分解され、酒ができているわけです。このような化学的メカニズムを知らなかったはずの正暦寺の僧侶たちは、生米と少量のご飯を入れた水で乳酸菌を増殖させ「そやし水」という名の酸っぱい水をつくりました。その水は有害な雑菌を駆逐して、自然界の酵母菌が増殖し活動できたのでした。ちなみに、酵母菌自身は酸性の水に強い「耐酸性」の微生物です。

菩提酛は現在の酒造りの系譜の源流に位置付けられます。江戸時代によく知られ現在でも一部利用されている「水酛」という造り方とよく似ており、その水酛はさらに明治40年代になって、西洋科学技術が導入されて、「速醸酛」という名称の、失敗の少ない酒造り手法として進化・結実し、現代の酒造りのほとんどはこの速醸酛が利用されています。速醸酛以外では数少ない「生酛」造りですら、乳酸菌を利用する、という点では「菩提酛」が元になっているとも言えます。図示すると、

「菩提酛」⇒「水酛」⇒「速醸酛」「生酛」

(室町時代)(江戸時代)(現在)

という系譜が20世紀後半になって特定できたわけです。その「菩提酛」は菩提山正暦寺にのみ見られる独特の製法であることが上述の「御酒之日記」で見て取ることができました。

本公開講座では、さらに、「菩提酛」製法のオリジナリティーを検証するという目的から、中国の造酒方法を記した『北山酒経』(1116年以前に完成)という書物を詳しく読み、乳酸菌による酸味の強い水を使った酒造りが、菩提酛の記録より、さらに数百年も以前から中国では行われていたことが分かってきました。日本国内では、正暦寺だけが、中国にも見られた手法を使っていたことは不思議な現象です。また『北山酒経』によれば、完成した酒の中の雑菌を駆除するための「火入れ」もまた古くから行われていたことも分かります。
最後に、奈良というところは、酒の神を祀る記録上日本最古の神社(大神神社)があり、また現在の日本清酒の源流に関わる菩提山正暦寺がある、いわば「日本酒の聖地」を標榜できる県です。「聖地」にふさわしい地とするために、IT、AIなどを駆使した「日本酒情報の発信地」であってもよいと思います。また、(各国料理との相性の探索も含めて)健康に楽しく酒を学び・造り・味わう(「マスター利き酒師」の育成など)諸外国人から成る国際チームを結成してもよいのではないか、というのも、一奈良ファンとしての夢想です。

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