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 【生涯学習】

《公開講座記録》【人間学で読み解く現代社会】第2回 ひきこもりと社会復帰 ─当事者の事例から考える─

第2回
●2020年10月18日(日) 午後1:30
●テーマ:ひきこもりと社会復帰 ─当事者の事例から考える─
●講師  田中 喜行 総合教育研究センター 助教

内容

ひきこもり当事者でもある自身の経験を中心に、事例紹介と関わり方の注意点について講演を行った。

まずは、自身の経験についての紹介である。幼少期に両親の離婚で母方の実家のある漁師町で育つことになった。地域柄、少々気性の荒い者が多かったが、保護司をしている祖父の厳しい教育方針から、いじめられてもやり返すこともなく、針のむしろのような生活を送っていた。当時いじめられるのが当たり前だと感じ、周りの大人には相談することもなかったが、思春期を迎えた高校時代ついに人生に落胆し、1年生の夏休み明けから不登校になり最終的には中退してしまった。しかし、ひきこもりながらも外に出たいとの思いを抱えていた。半年ほど経ったある日、母親からひきこもり支援施設の存在を聞き、そこに通うようになった。自分よりも10歳ほど年上の人が多く、趣味も合わない人ばかりだったので、最初は話も合わず孤立した日々を送っていた。1年ほど経った頃、ある程度打ち解けられていたが、ある日、施設の関係者が署名を通所者に依頼してきた。署名の具体的な内容については言及を避けるが、個人的には自身をいじめた加害者を肯定し、自身の人生そのものを否定することに繋がると感じる内容であった。当日は15名ほど出席していたが、私を含めて3名が署名を拒否し、そのうちの一人の顔を見た最後の日となってしまった。この一件から支援施設の方針に疑問を持ち、自分が「ひきこもり支援を変える」との決意で学業復帰を決意した。高認試験を取り大学に進学してからは、いっそう熱心に勉強をしていたことから同級生にはからかわれていたが、それが奏功し、現在では大学教員として経済学の観点からニート研究をしており、キャリア教育も担当させて頂いている。
他の当事者の事例については、口頭での言及について事前に許可を得た上で、いくつか紹介を行った。

昨年相次いで起こったひきこもり当事者が加害者・被害者と事件では、関連する記事「回復した京アニ放火容疑者は、なぜ『優しさ』についてまず語ったのか(現代ビジネス2019.11.18)」を紹介し考察を行った。加害者の言葉に「人からこんなに優しくしてもらったことは、今までなかった。」といったコメントが紹介されており、他の誰かに与えられている「優しさ」が加害者には与えられることはなく、それが相対的にみじめさを浮き彫りにし、恨みとして蓄積されたと指摘されている。結局のところ「孤立」により、例えばお互いに思いやるといった社会的理想からの乖離が大きくなり、自分の不幸さをより強く感じてしまう。それにより、さらに他者を遠ざけてしまい、「孤立」を深めてしまうのだろう。

ここで、当事者の「孤立」を防ぐことが重要になってくるのだが、その関わり方については、気をつけてもらいたいポイントがある。あくまで、当事者の感情に寄り添うことが大事だということだ。たとえ負の感情であったとしても、支援者にはそれを受け止める必要がある。例えるなら、中学で習う物理の「慣性の法則」のようなものだ。当事者の感情をそのままに尊重して欲しい。否定したり対立してしまうような場合だと摩擦が生じてしまう。それだけでなく、先回りして当事者に行動を促すようなことも摩擦が生じる。例えば親の「今日の宿題終わった?」といったような言葉により、宿題のやる気をなくした経験のある方も多いのではないだろうか。このように、押しつけや先回りといった言動は当事者との摩擦を生んでしまうので、厳に慎んでもらいたい。なかなか本音を言ってくれない当事者ではあるが、無理に行動を促したり、感情を聞き出そうとするのではなく、肩にそっと手を添えるようなスタンスで根気よく関わり続けて欲しい。そうすれば、いつか頼ってくれる日が訪れる。「どうしたらいいのだろう?」との質問には積極的に一緒になって考えて欲しい。それが、強い信頼関係につながり、未来への大きな一歩となるはずである。

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