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 【生涯学習】

《公開講座記録》【人間学で読み解く現代社会】第3回 家族とケア ─自立と支え合いをどう構築するか─

第3回
●2020年10月24日(土) 午後1:30
●テーマ:家族とケア ─自立と支え合いをどう構築するか─
●講師  森口 弘美 人間関係学科 准教授

内容

1. 社会福祉の発展と家族の役割

周知のように、世界中には福祉の手厚い国とそうではない国がある。高福祉と言われる北欧の国々は高負担でもある。一方のアメリカに象徴される低福祉低負担の国もある。国家予算の社会保障費の割合からは、日本はアメリカほどではないが、比較的、低福祉低負担寄りに位置している国であると言える。

日本はこうした低福祉のもとで、ケアのニーズを「公助」に頼ることができない分を家族が補完してきた。しかし、核家族化により家族の人数が減り、女性の社会進出が進むなか、家族だけにケアの支え手を任せることは難しくなってきた。そこで、1990年代の終わりごろから議論された社会福祉基礎構造改革により、戦後つくられた社会福祉法制度を大きく変えた。2000年に創設された介護保険制度は、この改革の一環としてできたものである。

2.サービス利用はケアする家族を救えるのか

少子高齢化が進むなか、家族だけではとても介護を担いきれない、かといって「公助」を充実させようにも税金を上げるは簡単ではない。そこで、国民が保険料を負担し、介護の必要度に応じてサービスを利用できる「共助」の仕組みとして介護保険制度ができたのである。この仕組みが家族にもたらしたメリットはとても大きかったと私は考えている。

介護保険制度ができる前は、基本的には家族が可能な限り頑張り(日本の場合はこれが「自助」)、家族では難しくなった場合に、限られた「公助」により救う措置がとられた。地域の社会資源の状況や自治体の対応の違いもあろうが、少なくとも私が前職(障害者福祉に関わる非営利団体)で見てきた障害者家族の多くは、そのような状況に置かれていた。しかし、介護保険制度(障害者の場合は支援費制度)が導入されたことにより、介護の必要度の認定を受ければ、誰でもサービスが利用できるようになった。これは家族にとって、ぎりぎりまで無理をしなくても良くなったという点で画期的な変化であったと言える。

では、サービスが利用できれば、家族の負担や苦悩は無くなるかというとそうとも言えない。たとえば、入所施設に暮らす高齢者や障害者の家族のなかには、「自分が介護したかったのにできなかった」「入所した当人がかわいそう」と罪悪感で苦しむ人たちがいる。また、「家族が見ることが良いことだ」と考え、負担を抱え込んでしまう家族もいる。看取った後に残される後悔を抱え続ける人たちの苦悩もやはり、サービスでは解決できない。

3. 「互助」の重要性

介護殺人や介護心中は、決して過去の話ではなく近年になってもたびたび起きている。他人から見れば、「そんなに大変ならサービスを利用すればよかったのに」、「専門職に相談すればよかったのでは」と感じられるケースも少なくない。しかし、介護者が苦悩の末にこうした行為に及ぶのは、当人が正常な判断ができない鬱状態に陥っている可能性がある。その場合はやはり周囲の人がいかに気づき、自ら手を差し伸べられるか、あるいは専門職につなげられるかが大事になる。

ケアを必要とする人を支えるために、日本は「自助」と「公助」に加えて「共助」の仕組みを作った。今後さらに少子高齢化が進んでいくなか、こんどは「互助」が強く要請されていくことになる。介護保険制度が、国が主導して保険料や税金を運用する「共助」の仕組みであるのに対して、「互助」とはボランティアや地域住民による支え合いである。そうした地域の個別の支え合いが効果的に機能するような仕掛けとして、厚生労働省は「地域包括ケアシステム」の構築を推進している。

「地域包括ケアシステム」においては、私も含めて市民一人ひとりの役割が重要になる。ただし、「公助」でできない部分を市民が頑張るということばかり考えていては、助け合いの気持ちをもつ人たちの思いや行為が「いいように使われる」ことになりかねない。このシステムが仕組みとして機能するためには、私たち自身がこのシステム作りに参画する意識をもつことが大切である。

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