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 【生涯学習】

《公開講座記録》【人間学で読み解く現代社会】第4回 「学ぶ」ということの意味を考える

第4回
●2020年11月22日(日) 午後1:30
●テーマ:「学ぶ」ということの意味を考える
●講師  杉山 晋平 人間関係学科 准教授

内容

「人間は、学び続ける存在である」と言われる。生涯学習という考え方も広く社会に浸透してきた。しかし、時代の移り変わりとともに、この「学ぶ」という営みの捉え方(=学習観)は大きく変化してきた。そこで本講座では、社会変化とのかかわりで学習観の軌跡を辿り、私たち人間の学びに固有の本性を考えた。

(1)行動主義的な学習観
「学ぶ」という言葉から連想されるのは、「お勉強」のイメージかもしれない。「お勉強」は、その最中は苦しくとも、それを乗り越える達成感や充実感は大きいものだ(例えば、試験に合格した瞬間のように)。ここで言う「お勉強」は、練習を繰り返して何かを憶えこんでいくような、ドリル学習を彷彿させる。このように新しい刺激と反応の結びつきをつくりだしたり、それを強化したりすることを学習として捉えるのが、「行動主義」である。端的に言えば、「学ぶ=できるようになる」と考える立場である。この立場によれば、学習とは観察可能なもので、「条件づけ」によって進んでいくものであるという。

この立場に関しては「パブロフの犬」や「スキナーボックス」といった動物実験が有名だが、人間を対象とする研究にも種々の応用が図られ、一時は学習研究を席巻する考え方にまでなった。その背景には、一方では20世紀初頭の客観的科学への志向性の高まり、他方では条件づけを原理とする「プログラム学習」の教育現場への普及拡大があったのだろう。

(2)認知主義的な学習観
しかし、人間は、実験状況における動物と同一原理で常に条件づけられる存在、すなわち受動的な存在であるわけではない。また、学ぶという営みは、観察可能な外的行動のみならず、人間の内面にも及ぶプロセスであろう。このような批判に立って現れたのが、「認知主義」である。この立場は、「できる」だけでは学んだことにはならず、「わかる」こと、つまり意味を理解することこそ学習なのだと主張した。人間の認識や理解の変化を追い求め、人間の内面(脳内)を射程に含めて考えようとしたわけである。

特に1970年代から認知主義の学習研究で勢いを増してきたのが、「情報処理」心理学である。折しもコンピュータ科学が発展し始め、東西冷戦を遠因にした科学技術教育の競争的な推進、合理的・効率的な教育への要求もその後押しとなった。人間の学びを「頭の中の情報処理」とみなし、さまざまな教育現場で教授・学習過程の改善を試みる応用的な研究開発を拡大させていったのである。

(3)社会構成主義的な学習観
しかしながら、人間は情報を処理し、知識を貯蔵するだけの容器ではない。人間が学ぶことの価値は、情報を処理・貯蔵する量や速さで語り尽くせるものではないだろう。むしろ、人間は既存の知識に疑問を投げかけたり、自ら知識をつくりだしたり、その意味を更新したりする可能性をもった存在である。そのような可能性に光をあてるべく、1990年代以降、心理学の実験室を飛び出して、私たちの日常的な現実から「学び」のリアルを捉え直そうとする学習研究が注目を浴び始める。

人間に固有の学びの本性とは、決して条件づけや個人の情報処理で説明し尽くせるものではなく、個人を取り巻く他者・道具・環境との相互作用において生まれる、社会的なプロセスである。この社会構成主義の立場は、「つくる」こと、「分かち合う」こととの関わりで人間の学びを理解しようとした。人間の学びとは、外界との相互作用に自ら変化を加え、時には自分たちの活動を支える条件(道具・ルール・コミュニティ等)そのものをつくりだしながら、よりよい存在へと成長していくプロセスを含む、と考えたのだ。

かつて、旧ソ連の発達心理学者であるレフ・ヴィゴツキーは、「1人でできること」と「他者の存在によってできるようになること」との隔たりを「最近接発達領域」と呼んだ。私たちの学びや成長は、常に他者のかかわりとともにあることを思い出させる概念である。また、人間は様々なコミュニティに支えられて学び、やがてコミュニティの発展を担う存在へと成長していく。つまり、学ぶということは、コミュニティに「参加」する(一員になる)こととも切り離せないだろう。このように、人間の学びとは社会的なプロセスなのである。

現在、新型コロナウイルス感染症という世界的に未曾有の危機に直面し、社会の諸機能が打撃を受け、私たちの生活は大きな制約を被っている。その渦中において私たちに求められているのは、自分たちの生き方を見つめ直し、よりよく生きていくことの意味と条件をつくり、分かち合っていくという社会的な学びのプロセスなのかもしれない。

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