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 【生涯学習】

《公開講座記録》【外国語への招待】第2回 認知言語学的な観点から見た韓国・朝鮮語の使役表現について ~モダリティとの共通点を探して~

第2回 ●2021年7月10日(土)13時30分
テーマ ●認知言語学的な観点から見た韓国・朝鮮語の使役表現について ~モダリティとの共通点を探して~
          ●講師  高地 朋成 外国語学科 准教授

内容

認知言語学者のLeonard Talmyは英語における使役動詞とモーダル動詞が、認知言語学的に観察すると、まるでコインの裏と表の関係のように相互補完的な関係を形成していると指摘した。本講演では、韓国・朝鮮語の使役表現である‘-게 하다’を対象にモダリティの観点から論じた。本来は使役を表すために機能する‘-게 하다’がモダリティ的に機能するための条件を明らかにし、また‘-게 하다’をモダリティ表現として見なし得るか否かについて論じた。

(1) ‘-게 하다’がモダリティ的に解釈されるための条件
本来は「使役」を表すための表現である‘-게 하다’が「束縛的モダリティ(deontic modality)」的に解釈されるためには次のような条件をすべて満たさなければならない。

① 「被使役者」である事象の行為者が有情物である。
② ‘-게 하다’に先行する用言が動作性動詞である。
③ 「使役者」と「被使役者」の関係が、例えば「法的権限を持つ者と法を遵守すべき者」や「雇用主と被雇用者」のように、何らかの「力の上下関係」を形成する。

‘-게 하다’が「束縛的モダリティ」に相当する意味を表すためには、「事象(event)の統制者である使役者が、事象の行為者である被使役者に向けて、社会的・倫理的・道徳的規範等に基づいて、事象の実現を誘発させるように働きかける」という構図が必要となる。すなわち、‘-게 하다’が用いられた使役文において、使役者は、被使役者に「束縛する力」を作用させることで、特定の事象の実現を誘発させるということである。‘-게 하다’が、特定の条件下ではあれ、「束縛的モダリティ」の用法を持つ理由は「力のダイナミックス(force-dynamics)」に起因することに他ならない。「使役」と「束縛的モダリティ」は、文中に顕在的に表されるか否かの違いはあれ、行為者(使役の場合は、動作主は被使役者に相当)が参与する事象の実現(または未実現)を統制する統制者(使役の場合は、使役者が統制者に相当)の存在が要求される。よって、本来は「使役」を表す‘-게 하다’が条件を満たした場合に限って、「束縛的モダリティ」を表すことが可能になると考えられる。「使役」と「束縛的モダリティ」は、1つの場面を2つの別の視点から捉えたものであると言える。韓国・朝鮮語の場合においても、「使役」と「束縛的モダリティ」が「力のダイナミックス」に関して共通した特徴を持つと言える。

(2) ‘-게 하다’はモダリティ表現としての資格を有するか?
「‘-게 하다’をモダリティ表現として見なし得るのか?」という疑問に答えるべく、「モダリティの程度性」なる判定項目を利用して‘-게 하다’について検証を実施した。「モダリティの程度性」の判定項目は以下のとおりである。

(a) 「モーダルな意味(modal meanings)」を表す。
(b) 話し手の態度に関する「モーダルな意味」のみを表す。
(c) 否定形式の作用領域の外に位置する。
(d) 過去時制形式の作用領域の外に位置する。
(e) 「認識的モダリティ(epistemic modality)の文法形式の後続が許容されない。

なお、「モダリティの程度性」とはモダリティを表す典型的な文法形式の持つ統辞的および意味的特徴をもとに設定したものである。したがって、この判定基準において該当する項目が多ければ多いほど、‘-게 하다’はモダリティの程度性が高いということになる。検証結果を以下において述べる。

第1に、(a)の観点から考察してみると、‘-게 하다’は「使役」を表す分析的な形であるため、本質的にはモーダルな意味を表す形式ではない。しかしながら、場合によってはモーダルな意味を表すことも可能である。したがって、条件付きではあるが、(a)の観点ではモダリティ的であると言える。

第2に、(b)の観点から考察してみると、‘-게 하다’は束縛的モダリティに該当するモーダルな意味を表す場合はあっても、話し手の態度にのみ関するモーダルな意味(例えば、話し手による「推量」または話し手の「意志」)のみを表すわけではない。したがって、(b)の観点では非モダリティ的であると言える。

第3に、(c)の観点から考察してみよう。‘-게 하다’は否定形式の‘-지 않다’の後続を許容する。すなわち、‘-게 하다’は否定形式の作用領域の内側に位置し得るということであり、(c)の観点でも非モダリティ的であると言える。

第4に、(d)の観点から考察してみよう。‘-게 하다’は過去時制接尾辞の‘-았/었-’の後続を許容する。これは、‘-게 하다’は過去時制接尾辞の作用領域の内側に位置し得るということである。よって、‘-게 하다’は(d)の観点でも非モダリティ的であると言える。

第5に、(e)の観点から考察してみる。‘-게 하다’が認識的モダリティの機能を持つ分析的な形である‘-을 것이다’の後続を許容するということは、既に確認済みである。したがって、‘-게 하다’は典型的なムード形式とは異なり、認識的モダリティの機能を有する文法形式の後続を許容するため、(e)の観点でも非モダリティ的であると言える。以上のことから、‘-게 하다’はモダリティ表現としての資格を満たしていないことが明らかになった。

(3) まとめ
今回は、「使役」を表す分析的な形である‘-게 하다’について「モダリティ」の観点から考察を試みた。今回の考察を通じて、「使役」と「束縛的モダリティ」が「力のダイナミックス」に関し共通した特徴を持つということが、韓国・朝鮮語の場合においても当てはまることが明らかになった。本来、「使役」を表す文法形式である‘-게 하다’が、特定の条件下においてではあるが、「束縛的モダリティ」に該当する意味を表すという事実は、まさに「使役」と「束縛的モダリティ」の類似性を説明する例証になっている。

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