1. HOME
  2. ニュース・トピックス
  3. 《公開講座記録》【地域研究への招待】第3回 日本のソフトパワーの一角、清酒の源流「菩提酛」 —復元の歴史と新たなチャレンジの軌跡—
 【生涯学習】

《公開講座記録》【地域研究への招待】第3回 日本のソフトパワーの一角、清酒の源流「菩提酛」 —復元の歴史と新たなチャレンジの軌跡—

第3回
●2022年6月25日(土) 午後1:30 
●テーマ: 日本のソフトパワーの一角、清酒の源流「菩提酛」 —復元の歴史と新たなチャレンジの軌跡—
●講師  住原 則也(地域文化学科 教授)

内容

近年和食がユネスコ無形文化遺産に認定されているが、その相棒であり引き立て役でもある食中酒が長い歴史を有する日本酒である。世界で消費されるアルコール飲料の中で日本酒が占める割合など取るに足らぬものであるが、思いのほか高度な技術を要する。その日本の清酒の製造法の源流が奈良であることを示唆する古文書(中世の『佐竹日記』の中の「御酒之日記」など)が、戦前の20世紀半ば、東京大学史料編纂所で見いだされ、さらに数々の状況証拠となる文献が示されてきた。

日本酒の歴史は中世の「僧坊酒」、つまり寺院での酒造りの中に、現在の清酒造りにつながる源流があり、奈良には酒造りをしていたいくつもの寺院がある中で、特に奈良市南東部の山間で991年創建の菩提山正暦寺が造る酒「菩提泉」が、戦国時代、広く天下に聞こえた名酒であった。しかしその事実は歴史の中に長らく忘れ去られ、奈良県内の醸造家の間ですら自覚されるようになったのは、20世紀も暮れになった頃のようである。

1996年奈良県内有志の日本酒メーカーの関係者が集まり、「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」(以下、「菩提酛研究会」)を立ち上げ、ゆかりの正暦寺と県の工業センター(現、産業振興総合センター)と三つ巴なって(付言すれば、天理大学附属天理図書館も資料提供などの協力を行い)、清酒造りに優良な乳酸菌・酵母菌などの微生物を正暦寺の寺領内で発見し培養して、菩提酛の再現を1999年に成功させた。以来、現在まで四半世紀にわたり、毎年正月には正暦寺敷地内で菩提酛と呼ばれる酒母(清酒造りの元になる大量に培養された酵母)が造られ、それを元に、参加メーカーがそれぞれ固有の味に仕上げて世に出してきた。当報告者は2006年より菩提酛に関わる動きを断続的に追ってきたもので、さらに県外の「菩提酛」と名の付く清酒製造の動向にも注目し、最新情報を含めた内容を今回の公開講座で報告した。特に平成時代の後半と、あらたに令和の幕が開けた以降直近の、県内外の新しい取り組みに重点を置くとともに、菩提酛造りを行うメーカーに見られる共通点と個別の特性について多少とも明らかにすることを試みた。各種の持続的イノベーションという観点からも光を当てたつもりである。

忘れ去られていた菩提酛の造りの再現の歴史について時系列で見れば、その嚆矢となるのは昭和60年であり、岡山県の蔵元御前酒(辻酒造)によって行われたものである。さらに、昭和63年奈良県内の安川酒造が続いた。これら先行の2例は、製造方法のみに限って行われた菩提酛の再現であった。その後先述の県内「菩提酛研究会」の15の酒造メーカーが共同して研究を重ね、平成11年(1999年)に、正暦寺由来の有望微生物である乳酸菌と酵母菌を発見し利用することで、より本格的な再現に成功したものである。このような動きを通じて、当初知られることのなかった「菩提酛」の名称は、全国的にも認知されるようになり、平成の後半からは、千葉県の寺田本家、静岡県の杉井酒造、秋田県の新政酒造、群馬県の土田酒造、などが次々に菩提酛の製法を試み、製品を出してきている。

上記「菩提酛研究会」の参加メーカーは、さらに2021年に初めて全社共同の清酒「菩提泉」を製造して菩提酛造りの原点の姿を示すという新たな試みを行い、さらに同時期、3つのメーカーが、深い研究を経て資本も投じ、それぞれに「KRAMOTO R1」「水端」「みむろ杉 木桶菩提酛」など特別ブランド品も出して注目を集めている。

これら県内外のメーカーが、各様のイノベーションを行っているが、いくつか共通項と思われる傾向が見られた。中でも最も顕著な共通項の1つは、各メーカーが立地する地域の歴史や自然を重んじ、水はもちろん、地域の酒米や、自身の蔵に棲みつく微生物(乳酸菌や酵母菌)にこだわりつつ、現代人の口にも満足を与える、良質の酒造りを目指すというものである。関連してもう一つの点は、単に自前の微生物にこだわるばかりでなく、人工の添加物を嫌って使用せず、徹底した天然自然の材料のみにこだわり純粋な酒質を目指していることがうかがえる。

日本の清酒の源流が明らかとなったことで、地域の可能性を高め、清酒のヴァリエーションを広げ、日本の伝統食文化の新しい沃野を切り開こうと挑戦していることが見てとれる。

クラブ・サークル

広報誌『はばたき』

メディア出演・講演情報・教職員の新刊案内

シラバスを見る

情報ライブラリー

学術情報リポジトリ

iCAFé_

附属天理図書館

附属天理参考館

附属おやさと研究所

学校法人天理大学

天理大学の自己点検・評価活動

寄付のご案内

このページの先頭へ

ページ先頭へ