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 【生涯学習】

《公開講座記録》【「大和学」への招待 ─宇陀歴史発見─】第2回 室生の民話 —魚が生き返る伝説と弘法井戸—

第2回
●2022年10月9日(日) 午後1:30
●テーマ: 室生の民話 —魚が生き返る伝説と弘法井戸—
●講師  齊藤  純(歴史文化学科 教授)

内容

宇陀市やその周辺には、弘法大師の奇跡を物語る伝説が伝わっている。女人高野として有名な室生寺に近いことから、弘法大師を礼賛するために出来た話のように思えるが、同様な言い伝えは各地にあって、それだけでは説明できない内容のものもある。それらを紹介しつつ、民俗学の立場から伝説を考えてみたい。

まず、室生周辺の例を挙げると、弘法大師が掘り出した水の伝説で、室生の「弘法の七つ井戸」(『室生村史』)、向渕の「五ふしぎ」の一つ「七つ井戸」(同)、檜牧の「弘法大師の岩清水」(現地の説明版)などの井戸や湧き水が存在する。また、大師の刺した箸が不思議にも成長したという木があって、高井の「千本杉」は大師の弁当の箸が大きくなったものといい、そばに井戸も湧いている(『大和の伝説』)。高僧とは思えない極端な喜怒を伝える話もあり、水・野菜・果物などを大師が欲しがり、与えると、それらが豊富になり、与えないと欠乏したという。たとえば、旧東里村では、栗を与えると二度栗が実るようになった(同)。向渕では、柿をあげたものの桃はあげなかったので、よく柿ができるようになったが、桃は悪いものしかできなくなった。さらに、焼いた魚を放すと生き返ったという、とても人間業とは思えぬ奇跡を伝える話もあり、上笠間と三本松の間の平原という土地では、子供が焼いていた魚を大師が放すと生き返った。その魚には焦げ跡があり、「焼ケバイ」と呼ばれている(『大和の伝説 増補版』『室生村史』)。同様な伝説は奈良県内にいくつもあり、さらに日本全国からも多くの例が報告されている。

日本民俗学の先駆者・柳田國男は著書『日本の伝説』でこうした類例を多数並べ、伝説の筋には型があること、たとえば主人公は多く旅人で、杖などで突くと水が湧く、使った木を刺すと育つ、望みを叶えると福があり、叶えないと不幸がある、といった共通の展開があることを明らかにした。さらに、同じ型の伝説でも、主人公は時代や場所によって入れ替わることを示し、これらの奇跡譚は、もとは神の行為を語る神話であったという説を唱えた。そうした話には実例があり、古代の『常陸国風土記』の富士と筑波の話では、富士山の神は訪れてきた祖神をもてなさず、そのため山は雪に覆われて不毛になり、筑波山の神は祖神をもてなしたおかげで、山は豊かに実り栄えたとされている。大師が水や食物を欲しがり、さらに高僧らしからぬ賞罰を与えたという伝説も、もとは、彼方から訪れる神の話で、その神は供物などでもてなされるべき、つまり祀られるべき存在であり、それによって人々や土地の禍福が定まるという話だった。それが忘れられ、旅をする歴史上の貴人に差し替えられた。そう考えれば、伝説の弘法大師の奇妙な性格も説明できるだろう。

主人公の入れ替わりについては、三本松に興味深い伝説がある。同地には「鎌倉の滝」という滝があるが、これは鎌倉から来た北条時頼(最明寺時頼)が病の回復を祈った場所なのでその名がついたという。このとき、時頼は焼いた魚を滝壺に放して祈願の成否を占ったが、魚は生き返り、それが「焼ケバイ」だという(『室生村史』)。先に記した平原の弘法大師の「焼ケバイ」と同じ型の話だが、実は鎌倉の滝のすぐ上が平原であり、この二つの伝説は、主人公が変わった同じ話といえる。主人公が弘法大師になっているのは、大師への信仰によるものと考えられるが、時頼はどういうことだろうか。これは、伝説の内容とは逆に、「鎌倉」の地名から連想されものらしい。「カマクラ」という地名は、神奈川県の鎌倉市に限らず、よくある地名で、「カマ=釜・彎曲」「クラ=岩・崖」で、彎曲した、あるいは釜のような岩や崖を表すと考えられる。鎌倉の滝も、滝壺がそのような彎曲した崖に囲まれていて、そこから、まず「カマクラ」とついたのだろう。その後、「鎌倉」に縁のある僧形の旅の人物ということで、謡曲「鉢の木」の逸話—僧侶姿で御家人のもとを旅して廻ったという伝説—で有名な北条時頼が当てはめられたものと考えられる。

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