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 【国文学国語学科 リレーエッセイ】

夏目漱石とヨーロッパ芸術 北川扶生子

  夏目漱石は、1900年から1902年までの2年間、ロンドンに留学しました。漱石が出会った100年前のロンドンはどんなところだったのでしょうか。漱石はロンドンで何と出会い、どんな影響を受けたのでしょうか。
  当時のヨーロッパでは、アール・ヌーヴォーと呼ばれるデザイン様式が人気を集めていました。天井から家具に至るまでほぼすべてが曲線で成り立っている、アール・ヌーヴォー様式で統一された住宅なども、数多く残されています。
アール・ヌーヴォー様式の住宅
【図1】アール・ヌーヴォー様式の住宅
  天理図書館には、橋口五葉(はしぐち・ごよう)がデザインした『虞美人草(ぐびじんそう)』初版の原画がおさめられています。ひなげしの花が描かれていますが、植物のモチーフによる曲線の組み合わせという、アール・ヌーヴォー様式でよく用いられたデザインの影響を、明らかに感じさせるものです。
夏目漱石『虞美人草』の装丁
【図2】夏目漱石『虞美人草』の装丁
  世紀転換期のヨーロッパ芸術は、漱石の本の装丁だけではなく、漱石の作品のモチーフにも深い影響を与えています。
 アール・ヌーヴォー様式が流行した時期、英国絵画の世界では、ラファエル前派と呼ばれる画家のグループが活躍していました。代表的な画家であるジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」という作品は、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」の一場面を扱っています。婚約者のハムレットに拒否されて、水におぼれて死ぬオフィーリアの姿が、あくまで美しく描かれています。
ジョン・エヴァレット・ミレイ画「オフィーリア」
【図3】ジョン・エヴァレット・ミレイ画「オフィーリア」
  漱石の小説『草枕(くさまくら)』は、ヒロインが水に呑まれて死んでゆくところを主人公の画工が絵にしようとするお話で、ミレイの「オフィーリア」が重要なモチーフになっており、「和製オフィーリア」という趣があります。
 こういった世紀転換期のヨーロッパ芸術の影響は、漱石のみにとどまらず、明治の文学全般に及んでいます。たとえば明治のロマン主義を代表する文学雑誌『明星(みょうじょう)』の挿絵には、アール・ヌーヴォーを代表するチェコの画家アルフォンス・ミュシャがデザインしたポスターを模写したと思われるものがあります。
文学雑誌『明星』の挿絵とアルフォンス・ミュシャがデザインしたポスター
【図4-1】文学雑誌『明星』の挿絵(左)と【図4-2】アルフォンス・ミュシャがデザインしたポスター(右)
 世紀転換期の芸術は、明治文学全体に大きな影響を与えています。文学作品は、絵画やデザイン、都市環境など、様々な文化と深く関わりながら生み出されるのです。


図版出典:
Greenhalgh, Paul (ed.) Art Nouveau 1890-1914, 2000, V&A Publications
Marsh, Jan Pre-Raphaelite Women, 1987, Weidenfeld&Nicolson
『明星』第6号(1900.9 東京新詩社)
Lipp, Ronald F., Alphonse Mucha: The Message and the Man, 2000, Frances Lincoln
 

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