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 【リレーエッセイ 感染症と人類10】

戦争と感染症—戦時下の『主婦之友』から—

北川扶生子 教授(文学部国文学国語学科:日本近代文学)

感染症の蔓延(まんえん)を防ぐことは、平和なときでも、たやすいことではありません。しかし、歴史をふりかえると、十分な衣食住が補償されない非常時には、感染症が爆発的に流行しています。
太平洋戦争終結期にも、感染症による死者数は大きく増えました。近代最大の感染症といわれた結核による死亡数も、ピークを記録しました。十分な栄養をとることもできず、空襲が続くなかで、人々はどのように感染症とたたかったのでしょうか。

雑誌『主婦之友』の1945年5月号(図1)には、今後予想される感染症の爆発的蔓延に備えるよう呼びかける、医師の記事が掲載されています。『主婦之友』は、戦前期にもっともよく読まれていた女性向け雑誌です。
この記事では、平時は入院・隔離が必要な感染症患者を、家庭で看護しなければならない事態が起こっていること、その際の対処法が説明されます。
たとえば、空襲のときには、重症化した感染症患者を抱える家庭では、患者を担架か戸板に乗せ、手は消毒薬かアルコールで拭いてやり、毛布か布団、その上にふだん使わないシーツをかけて、静かに防空壕に運び入れればよい、と書かれています。
しかし、こうした方法は、果たして現実に実行可能だったのでしょうか。ふだんから体をきたえ、「お手本」として示されたことを忠実に行えば、感染症は完全に防ぐことができると、この医師はくりかえし強調しています。戦時下の家庭には、負傷者の救護など、多大な責任がのしかかりました(図2)。

『主婦之友』ではこの時期、「軍国の母」や「ほまれの子」が頻繁に表彰されていました。より多くの息子を戦争で失った母親や、父親の戦死で遺された子供を顕彰するもので、情報省・文部省・陸軍省・海軍省・大日本婦人会などが後援していました。さまざまなかたちで国民の「お手本」が示され、メディアによってそのイメージが浸透したのです。
戦争が終わった1945年9・10月合併号の『主婦之友』の巻頭記事は、「敗戦国日本の輝かしい前途 神は無意味に苦難を与へ給はぬ」「座談会 連合軍進駐を迎へて 日本婦人の心得を語る」というものでした。「お手本」のなかみは、あっという間に入れかわりました。

参考文献
北川扶生子『結核がつくる物語 感染と読者の近代』(岩波書店、2021年)
北川扶生子『コレクション・モダン文化都市 第53巻 結核』(ゆまに書房、2009年)

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